東京高等裁判所 昭和25年(う)4034号・昭25年(う)4036号 判決
検察官、検察事務官または司法警察職員が或る者を被疑者として取り調べていたとしてもこれを他人の被疑事件について被疑者としてではなく参考人として取調べる場合には刑事訴訟法第百九十八条第二項所定の所謂供述拒否権あることを告知する要はない。しかし取調べ事項がその者に対する現に繋属中の被疑事件と共犯関係若しくは必然的関聯性を有する場合には所論のように右法条の趣旨に鑑み該拒否権あることを告知することは望ましいことではありまた妥当であると解すべきも、これを欠如するからというて苟も任意に為されたその供述調書を所論のように証拠能力がないと解するのは適切ではない。これ右拒否権告知の欠如は稍もすれば所謂任意性を疑われる場合必ずしも無しとせざるもこれを以て直ちに証拠能力の有無に影響があると速断することは正当ではないからである。而して所謂上野周吾に対する副検事小林寅雄作成に係る供述調書は被告人等に対する被疑事件の参考人として取調べたものであり、かつその取調べ事項が同人に対する被疑事件と共犯関係若しくは必然的関聯性を有する事項でもあり、また前記供述拒否権の告知をしたかどうかは明確ではないが該調書の形式内容その他記録に顕われた諸般の情況に照すと任意に為されたものであることを推知することができるから該供述調書について証拠能力がないことを前提とする主張は採用できない。而してまた刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号後段の「公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき」の規定の趣旨は証人が法律上正当な証言拒否権によつて公判準備若しくは公判期日において全然供述しなかつた場合をも包含するものと解するを相当とすべく従つて所論上野周吾が本件被告事件の公判において法律上与えられた正当な拒否権によつて証言を拒否した場合において、若しくはこれに反して積極的に供述したとしてもこれが同人に対する副検事小林寅雄作成に係る供述調書と相反し若しくは実質的に異つた供述である場合においては、右の供述調書が信用すべき特別の事情の存する限り原審が該供述調書を証拠として事実認定の資料に供したからというて違法ではない。而してなお所謂任意性若しくは信用すべき特別の情況に関しては証拠提出者の立証の有無に拘らず原審がその有する自由なる証拠の取捨、価値判断権に基き為すべきものであるから原審は右上野周吾に対する供述調書については勿論、所論指摘の各供述調書についてもいずれも所謂任意性並びに信用すべき情況の下に作成されたと認めまた押収に係る現金五千円についても原判示のような趣旨の下に授受されたものと認めてこれを証拠として採用したことを推認するに足り、かつこれを正当とすべく、その他原審には所論のような所謂判決に影響を及ぼすべき訴訟手続の違背は認められない。
論旨は結局いずれも理由がない。